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仙台高等裁判所 昭和38年(ラ)36号 決定 1963年9月27日

抗告人

本田清一

代理人

中村慶七

相手方

工藤典巳

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

第一、抗告代理人は原決定を取り消すとの決定を求め、その理由として、つぎのとおり陳述した。

原決定は相手方の訴訟代理人の

(一)  昭和三一年六月五日(第一審)

(二)  昭和三四年四月二〇日(第二審)

(三)  同年九月一四日 (〃)

(四)  同年一一月一八日 (〃)

(五)  昭和三五年二月一〇日(〃)

(六)  同年四月二五日 (〃)

(七)  同年七月四日 (〃)

(八)  同年九月二六日 (〃)

以上各口頭弁論期日の出頭に関し、いずれも通常の旅費、日当、宿泊料を計上し、次の事情をしんしやくせずにこれを抗告人に負担せしめた。

すなわち、相手方の訴訟代理人は(一)の期日には佐々木理之対坂本ちせ間の訴訟事件の口頭弁論期日のためにも原審裁判所に出頭したのであるから、その日当は本件の分と切半して、その半額を本件の費用とすべく、(二)ないし(六)の仙台高等裁判所の控訴審口頭弁論期日には、右訴訟代理人は前掲他事件の控訴審の口頭弁論のためにも当裁判所に出頭したのであるから、同様の理によつて、その旅費、日当、宿泊料を切半し、各半額を本件の費用とすべく、(七)(八)の期日には本件および前示事件ならびに一元商事株式会社対一戸嘉一郎間の訴訟事件の控訴審口頭弁論のためにも当裁判所に出頭したのであるから、その旅費、日当、宿泊料は右事件数に応じて均分し、その一を本件の費用とすべきである。なお(二)ないし(八)につき宿泊料はいずれも二泊分として計上してあるが当時の列車運行時刻表からみて仙台、青森間は一泊で足りる。また(八)の期日に出頭した証人津島忠八(青森市居住)に対する費用として、列車急行料金六〇〇円(これは、青森、仙台間の往復分に当たる)および宿泊料二泊分一、九六〇円を計上しているが、一泊で足りることは前同様であり、往路の急行料金は不要である、復路急行を利用したとすれば即日帰宅が可能なはずであり、もし、右期日終了の当日も一泊したとすれば急行を利用せずして帰宅できたはずである。

以上の諸点を看過した原決定は不当であるから、その是正を求めるため本件抗告におよんだ。

第二、当裁判所の判断

仮に抗告人主張の如く相手方の訴訟代理人丸岡奥松が本件の訴訟事件の外に同一日時に他の訴訟事件があつて同一裁判所に出頭したとしても、これに対する日当はその性質上各事件毎に法定範囲内の額を計上すべきものであつて、これを出頭事件数に応じて按分すべき根拠はないから、この点に関する抗告人の主張は理由がない。

これに反し、同一弁護士が或る事件と他事件との訴訟代理を兼ね同一日時に期日が指定されて同一裁判所に出頭した場合における旅費(或る事件のために出頭して、一旦帰宅し、さらに同日他事件のために出直したような特別の場合は別として)、宿泊料は、もともとこれらの費用はその数件の事件のために費やされたものとみるべきものであるから、これを数事件中の特定の当事者だけの負担とすべき性質のものでないのはもとより、各事件の当事者が法定の最高額(ないしはそれ以下ではあるが他事件のことは考慮にいれない金額)を重複して負担すべき性質のものでもなく、これら事件数に応じて按分負担せしめるべきものと解するのが相当である。原決定中抗告人主張の(四)(五)(六)(七)の口頭弁論期日出頭のための汽車賃、宿泊料を「半額支給」としてあるのは、抗告人主張の佐々木理之と坂本ちせ間の他事件が併存し、かつ右と同一所見に出でたものと推察することができる。しかし抗告人主張の(二)(三)(八)の各口頭弁論期日と同じ日に相手方訴訟代理人が抗告人主張の佐々木理之対坂本ちせ間の他事件のためにも出頭したこと、および抗告人主張の(七)(八)の口頭弁論期日と同じ日に相手方訴訟代理人が、抗告人主張の一元商事株式会社対一戸嘉一郎間の訴訟事件のためにも出頭したものと認めるに足りる資料は存しないから、これらの期日に出頭のための汽車賃、宿泊料を按分すべきであるとの抗告人の主張は採用するに由なく、前記(五)(六)および(七)のうち右以外の部分については原審においてすでに減額ずみであること前示のとおりであるからこの点の抗告人の不服も相立たない。

また抗告人はその主張の(二)ないし(八)の各口頭弁論期日に相手方訴訟代理人丸岡弁護士が青森市から当裁判所に出頭したための宿泊料として、原決定が二泊分を計上したことを非難する。しかし事と次第によつては青森、仙台間(行程三八八キロ)を一泊だけで往復することも可能であろうけれども、本件のように訴訟事件の弁論、証拠調のため裁判所に出頭するという重要な用務の処理のためには、その人の社会的地位にもかんがみ多少とも人間らしいゆとりのある日程としては二泊を必要とするのを常とすべく右相手方訴訟代理人が右必要の限度を超えて時間を冗費したがために二泊を要する結果を招いたと認めるべき資料は存しないから、抗告人のこの点の主張も採用できない。

抗告人はさらに原決定が、第二審証人津島忠八(青森市内居住)の青森市から当裁判所に出頭した宿泊料として二泊分を与え、往復急行料金を支給計上したことをも非難するが、二泊分を与えた点については右(二)ないし(八)点についての説明に準じて考えうる外、訴訟記録によると(八)の口頭弁論期日は午後一時に開廷され、しかる後相当時間を要し同証人の尋問が行われた形跡がうかがわれることからみてもますます右結論の正当であることを裏書されるし、往復とも急行料金を支給したとの点については、仮に同証人が利用した急行列車以前に目的地に到達しうべき普通列車があつたとしても、前記のように三八八キロもの長途の旅行にあたり、普通列車を利用せよとすることは、その心理的、肉体的疲労を考慮するときはむしろ非常識のそしりを免れず、原決定が右急行料金をも相手方の権利の伸張、防御に必要なものと認めてこれを認容したことは相当である。

以上の次第で抗告人の主張はすべて理由がなく、原決定は相当であるから、本件抗告はこれを棄却すべきものとし、民訴四一四条、三八四条、九五条、八九条を適用し、主文のとおり決定する。(裁判長裁判官松村美佐男 裁判官飯沢源助 野村喜芳)

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